~日々のしまだより~

漢方について

本日は漢方についての記事をご紹介いたします。

第2次大戦後、昭和20年代までの医学界の主要な課題は、感染症を克服することであった。周知の如く、わが国においても、腸チフス、パラチフス、結核、性病、寄生虫病などの感染症は猛威をふるい、これらの疾患に対して、適確な治療法は確立されていなかった。

 しかし、ストレプトマイシンやクロラムフェニコールなどをはじめとして、その後続々と登場した抗生物質や抗結核剤は、これらの感染症治療に劇的な効果をもたらした。厚生省の統計資料より、死因順位の推移や、傷病別有病率の動向をみても、このことは明らかである。わが国では、新薬の登場と、生活水準の向上、衛生状態の改善、検診制度の普及は期を一にして、種々の感染症の発生率そのものも激減させた。しかも、早期診断、早期冶療が可能になり、強カな効果をもつ抗生剤や抗結核剤が簡単に使えるようになった。この結果、終戦後に至るまでわたしたちを悩ませていたざまざまな感染症は、次第に蔭を潜めていったわけである。

 一方、当時のわが国の漢方医学は、明治初期に法的な基盤を失い、制度的に抹殺されていたが、その有効性を確信する一部の医師、薬学関係者によって、社会の一隅に細々とその命脈を保ち、これらの感染症に対しても、ある程度効果をあげていたことが報告されている。しかし、卒直にいって、漢方薬の一部の感染症に対する効果は、新薬に比較すれば、それほど鋭く強カなものではなかった。

 ところが、第2次大戦後今日に至る社会の急激な変化、人口の高齢化は、さまざまな成人病の増加をもたらした。これらの疾患は、つねに慢性に経過し、急性熱性の感染症には大きなカを発揮した西洋医学においても、その治療には難渋し、概して有効、適切な治療法を欠く場合も多い。このような慢性疾患の発症は、個人の内的な体質条件に左右されることが多く、しかもその病態は個々の臓器にとどまらず、全身的な機能の失調を多く伴うからである。以上のような情況から、個別的な対応に優れる漢方医学に関心が寄せられるようになったことが、今日の漢方医学の普及をもたらした1つの大きな理由である。

 漢方の古典である『傷寒論』『金匱要略』は、急性熱性の病態に対する治療を示すとともに、慢性に経過する各種の病態に対しても優れた治療法を指示している。このような漢方の古典に基づいた、豊富な臨床経験を有する漢方医学は、現代医療の主要な課題である慢性疾患の治療に、西洋医学にはない特異な効果を発揮するものと期待され、実際に広く臨床に導入されている。漢方薬の優れた効果を証明する臨床報告も、大学病院をはじめ多数の医療機関から行われている。

 第2には、サリドマイド事件に象徴されるような一連の新薬の副作用による不可逆的な健康被害は多くの人に恐怖感を与え、薬物に対する臨床家の考え方を大きく変化させた。すなわち、薬は効果がなければ意味はないが、それと同時に副作用が少ないということもきわめて大切な要素であると考えられるようになった。その点、漢方薬は天然の生薬からなっており、有効で副作用をはとんど心配する必要がなく、長期連用が可能である。

 漢方の役割が見直され、わが国で広く普及しつつあるのは、以上のような漢方の有用性が、現代医療における臨床家の要請に応えて、充分認識されたためであると考える。

2.漢方治療の拡がり

 わが国の漢方医学は、明治政府の欧化政策によって、急激に衰退していったが、わずかながら、その伝統を守り、復興を信じて営々と臨床に打ちこまれた医師のもとに、次第に同志が集まり、やがて各地に漢方医学の研究会が成立し、昭和25年(1950)には、日本東洋医学会として結集された。以後、年毎に医師、薬学関係者の参加を加えて、現在では2,700名の会員を擁する、わが国の東洋医学研究の中核的な学術団体として、活発な研究、啓蒙活動を行っている。

 また、近畿大学、富山医科薬科大学には、東洋医学研究所が設立され、財団法人の北里研究所付属東洋医学総合研究所とともに、東洋医学の基礎、臨床研究を推進する代表的施設となっている。

 わが国において、漢方医学が幅広い関心を集め、現代医療の中で重要な役割を担う契機となったのは、何といっても、健康保険で漢方製剤が使用できるようになったことであろう。わが国では、昭和36年(1961)、国民皆保険制度が確立し、保険で、使用する医薬品は厚生省の定める薬価基準に収載されたものでなければならないとされたが、昭和51年(1976)に数十種類の医療用漢方製剤が、この薬価基準に初めて収載され、引続き昭和53年(1978)、56年(1981)、59年(1984)に追加収載されて、現在では約150数処方に上っている。この背景には、医療用漢方製剤の有効性、安全性が、西洋医学をべ一スとする多くの医師にも事実として認められ、定着化してきたことが考えられる。この結果、明治の初めに正統医学と認められなくなった漢方は、医薬品として公的に評価されるようになったのである。

 わが国の医学会においても、第19回日本医学会総会(1975)、第20回日本医学会総会(1979)では、東洋医学はシンポジウムとしてとりあげられ、第22回日本医学会総会(1987)では、特別に会場を設けて、東洋医学の研究が紹介され、討議が行われる予定である。また、本年10月に開催される第17回国際内科学会議においても、東洋医学のシンポジウムが予定されている。

 日経メディカル誌の調査によれば、わが国の現在の医師の約40%は、何らかの形で医療用漢方製剤を日常の診療に導入しているという。今後、ますます普及し、現代医療の場において、慢性疾患を始め、多くの疾患に漢方医学の長所が活用され、同時に基礎、臨床の分野で漢方医学の研究は盛んになっていくであろう。

3.今後の展望

 わが国の漢方医学は、『医心方』成立前後に中国から伝来したものであるが、その後独自の発展を遂げて今日に至っている。現代では、漢方医学は、このような伝統をふまえて、故大塚敬節先生を頂点とする古方派、矢数道明先生ならびに細野史郎先生を頂点とする後世派があり、多くの漢方を学ぶ医師は、これらの学派に少なからず影響をうけている。また、最近では、現代中国で行われている中医学を直接導入する医師もあり、それぞれに臨床に応用しているというのが現状である。

 今後は、これら3つの学派がそれぞれ研鑚を積み、互いに影響し合って発展してゆくのではないかと考えられる。

 このような臨床を中心とする漢方研究医師の動向のほかに、漢方ならびに漢方薬の有効性を科学的に追究しようとする試みも、わが国では盛んになってきている。とくに、最近の優れた分析技術の発達により、漢方生薬の科学的解明がすすみ、漢方の有効性を裏付ける客観的な成果も続々と得られている。漢方は非科学的である、あるいは「前科学的」であると指摘されていたが、今後の研究により、その根拠が次第に明らかにされていくことであろう。現在、科学技術庁に東洋医学の研究班が設けられ、さまざまなアプローチで科学的研究もすすめられている。

 しかし、漢方医学の重要な概念である、陰陽虚実を、動物実験により解明していくことは、きわめて困難と考えられ、漢方の真価は臨床医学的な研究によリ明らかにされるべきであると考える。近々、厚生省により漢方薬の薬効再評価もすすめられる予定であり、厳密な臨床的研究によって漢方薬の有用性が立証されることが当面の課題となっているが、わたくしは、必ず漢方は再評価に耐える医学であると確信している。

 東洋には、わが国を含めて、現在でもなお伝統医学が医療の重要な位置を占めている国は多い。とくに、わが国と同じく、漢方医学の伝統を有する中国、韓国では、数多くの臨床家や科学者によって、臨床的、基礎的研究がすすめられている。これらの国々との国際的な交流を深めていくことは、わが国の東洋医学の発展に寄与し、また同時にわが国の東洋医学研究の成果を広く紹介する機会を得ることにもなる。そのような意味で、来年(1985)京都で開催される第4回国際東洋医学会は、きわめて意義深いものといえるであろう。

 時代が変わり、疾病像が変化しても、人間の本質は不変である。数千年にわたって漢方医学が存続し、現代においてもなお重要な価値を有するのは、漢方医学が枝葉末節にこだわらず、人間の本質を把えた医学であるからであろう。

以上転記終わり

漢方薬的な長命草の利用も有用ではないでしょうか?

~本日も皆様が健やかに過ごせますよう心よりお祈り申し上げます~

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